我が社の片隅にあるロッカーには、読書好き社員が読み終わった本を寄贈し、皆で読み廻すための『みんなの仲良し図書館』(この名前はウソ)がある。
先日、帰りがけに何か読み物が欲しくて、その中から一冊を持ち出した。カバーが掛かっていてタイトルすらも判らず、適当に選んだ一冊だった。
ところが半分ほど読み進む内にグイグイと引き込まれ、「いったい誰の作品?」と改めて中表紙をめくったら横山秀夫だった。「なるほどなぁ。さもありなん」と思った。
かつて私は彼の『クライマーズハイ』を非常に面白く読んだ。そして今回、偶然にも手に取った本は彼の『ルパンの消息』だった。
文章テンポも彼特有の素晴らしいさがそのまま生きていたし、構成がなにより素晴らしかった。
私はこんな事でもないと推理小説は滅多に手にしない。けれどこの作品は推理小説の枠を超えていた。物語の最後、グッとくるものがあった。推理小説だから結末書いちゃうのは御法度だろうけど、どうやら映画化、ドラマ化されてるようだから知ってる人も多いだろう。
でも、書かない。ルールだから。
終末に近づくにつれて、物語のテンポは一気に早くなる。そして最後に「まさか!」という女性が登場してくるのだが、この人がこれまた泣かせてくれるのだ。
この作品が処女作だそうだ。筆者自らの“改稿後記”を読んで、再び驚いた。
この作品はサントリーミステリー大賞(今はもうない)の佳作に選ばれたらしい。サントリーミステリー大賞は、前職時代、私が担当していたのだった。前の会社を退職した後にこの作品が出てきたってわけだ。前職退職後数年間、活字と映像から完全に逃げていた時期があったので、この作品は知らなかった。
しかし、偶然でこんな面白い作品読めるなんて、なんだかダイビングしていて海底で宝物を見つけたような気分だ。