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フィリピンに行かれたことのある方はご存じだと思うが、物売りのしつこさには閉口させられる。マニラ市内で車に乗れば、赤信号で停車するたびに物売りたちが群がってくる。
場所によってはダイビングしていても小舟に乗った物売りたちがワラワラとダイビング・ボートに寄ってくる。ダイビングを終えてボートに戻ると、その物売りたちが私たちのボートに乗り込んでた時もあった。ボート・クルーが仲間でもある彼らの乗船を許したのだ。船上という逃げようの無い空間での物売りには負けた。結局、10cmほどの大きさのタカラガイを買ってあげた。模造品だと分かっていたけど。

マニラ市内はいま、高速道路の建設ラッシュだった。かつてはマニラ空港から4時間ほどかかっていたというアニラオまでも、今では3時間弱だ。高速道路が全面開通すれば2時間ほどで行けるだろう。

マニラ空港に到着したその日、空港からホテルに向かうタクシー乗車中にも物売りがやって来た。夜中の11時だというのにタクシーに近づいてきた物売りは、あどけない少女だった。
ところが彼女がタクシーに近づくと、タクシー運転手が慌ててドアをロックした。どうやら最近では車の外から窓をノックして物を売るにとどまらず、ドアを開けて売りつけてくるらしい。

こちらの興味をそそるような品物なら買ってあげても良いのだが、悲しいかな彼らが手にしてる商品は、ワケの判らないお菓子だったり、私には読めない言語の新聞や雑誌だったり、買って帰っても誰が喜んでくれるか想像もつかないようなお土産物だったり……。
今回行ったアニラオからマニラへの帰路はスコールが降っていた。その雨の中でも物売り達は傘も差さずに赤信号で停車した車から車へと歩き回っていた。中にはランニングシャツ姿の小学校3年生くらいの子供もいた。
彼らが売ろうとしてる品物をどうやって、どこから仕入れているか私は知らない。けれど、もう少し売れそうな商品だって他にあるだろうに、と思う。
けれど、どんなにもう少し需要を喚起できる商品が手に入ったとしても、商機は赤信号で車が止まってるわずかな時間しかない。そのわずかな時間で勝負するには、ドアを開けてまで売るという危険すら冒さねばならぬということか。高速道路が完備されてしまえば、その危険を冒すことすら出来なくなる。彼らの商売はますます厳しくなるわけだ。

インドネシアの貧しい村で学校を建て、教師までも招聘している人が言っていたそうだ。
「魚を与えてはいけない。魚の採り方を教えてあげなくては」と。

もしも私が彼らと同じ条件で同じ立場であったなら、私は生きるためにどんなことをするだろうか。

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フィリピンの貧困層、数年前に接した時より更に貧困の度合いが酷くなっていたように感じた。

※写真上=アニラオのダイビング・ボート
    下=夕景の中を漁から戻る小舟





※注・アニラオでは村の中でもダイビング・ボートにも、物売りは寄ってきませんでした。