昨日、ちょっと残念な葉書が届いた。私たちのお気に入りの宿が来年2月で閉じられるという案内だった。お気に入りのそのお宿の名はオーベルジュ川平。

oberju

石垣島の北部に位置する風光明媚な川平湾に面して建っている。上の建物がそれ。
一階は食堂で石垣島産の魚介類や野菜をメインに、創作料理を食べさせてくれる。夕食時は目の前の海辺にライトが当てられ、時には釣り人が光に寄ってきたイカを釣っている姿を眺めながら食事が出来る。二階から上が客室で、部屋は8室のみ。特別に素晴らしい調度品があるわけじゃないけど、とてもセンスが良く、室内や廊下には洗練された香の香りが漂う。
宿泊料金は周辺の宿と比較すれば少々お高いが、食事の内容、従業員のレベル、そしてなんといってもその立地条件は、その宿泊料金を遥かに上をいく。

だから私は少々値段は張ってもいつもこの宿を利用していた。朝目覚めたときにカーテンを開けた瞬間の景色を見れば、じゅうぶんお釣りを貰ったといえる。

kabira

ところがこの地が2007年に国立公園指定となった。それ以来かそれ以前からか行政から立ち退きを命じられていたらしい。建物の老朽化と共に、今回とうとう撤退を決めたようだ。

確かにどうしてこんなに素晴らしい立地条件の場所に、この宿だけが建っているか不思議ではある。きっと、条約が出来る前に建ててしまったのだろう。私が学生時代にここに来たときは、このオーベルジュ川平どころか、みやげ物屋も無かった。湾にもこんなにたくさんの船はなくて、ほんの数艘、ぽつねんと小さなサバニが係留されているだけだった。聞こえてくるのは騒音に近い音量のクマゼミの鳴き声だけ。周辺にあった建物といえばたった一軒の雑貨屋と数件の民家と郵便局、そして黒真珠の養殖場だけだった。
glassboat_Sだから、その頃の景色を知ってる私からすれば、このオーベルジュ川平の存在より、湾に浮かんでいる観光船の方がよっぽど景色を汚しているように感じる。

しかし、それは景色を眺める立ち位置の問題で、なんとも景色にそぐわない見事な色彩感覚で「青いさんご礁 熱帯魚さんご礁めぐり」とペイントされたグラスボートに乗って景色を眺める人にはオーベルジュ川平という建造物は邪魔者と映ってるに違いないと思う。乗船客には船のボディは見えないし。

一昨年行ったときには大きな観光バスで中国人が大挙して観光に来ていた。この地が観光客とダイバーで成り立っている以上、オーベルジュ川平の撤退は致し方ない事だろうと思う。

しかし、私にとってはこれほど残念なことはない。