表題に「カモメ」とは書いたけど、この鳥がカモメなのか甚だ自信がない。いやきっと違う(ミズナギドリか?)。私が釣り船の船頭さんに教えてもらったカモメは翼を広げると1㍍以上あって、もっと大きかった。瞳もこんなつぶらではなかった。
中学生の時に、父の仕事関係の人に連れられて海釣りに行った。その頃わたしは釣りに凝っていて、ヘラブナから磯釣り、そしてその当時では珍しいルアーなんかにも手をだしていた。
連れて行かれた船釣りのお目当てはサビキで釣るアジ、サバだった。結構な釣果も上がっていたのだけれど、たまたま鳥山(大きな魚に追われた小魚が海面に逃げてきて、それを海鳥が狙う鳥の群のこと)を見つけた船頭さんは、「そら行け!」とばかりに鳥山に船を走らせた。
小アジか小サバか、何か小さなサカナを追って海面下にはブリかカンパチか、何か大きな魚がいるに違いない。仕掛けを大物用に替えるよう指示を出す船頭さんが私のタックルボックス(釣り道具箱)に目を留めた。
「オッ、お兄ちゃんルアー持ってるならそれで狙ってごらん」。
私はトビー(ルアーの一種類)の28㌘を投げた。
何度かキャスティングしてると猛烈な当たり。思い切ってフッキングした。
すると………。
海中に向かってしなるはずの私の竿は、なんと空に向かって引かれるではないか!
瞬間は「なんだ、ナンダ!」とワケが判らなかったが、よくよく目を凝らすと私のルアーに飛びついたのはサカナではなくてカモメだった。
小魚は大きな魚の獲物ではあるが、海鳥たちのご馳走でもあるわけで……。
心臓バックンバックン状態で10数分の格闘の末、私はカモメを釣り上げた。いや釣り降ろした。
船上は戦場(シャレではない)のようになった。なにせカモメが大暴れするのだ(当たり前だけど)。暴れるたびに羽毛が抜けて舞い散るのだ。大人数人がかりでルアーを外すことになった。カモメと格闘する大人達の頭はカモメの羽毛で真っ白になり、他の釣り客はカモメから離れようと逃げまどい、まさに戦場のようだったのだ。釣り竿を抱えて私は呆然としていた。
その時、私はカモメがとても怖い鳥だと知った。クチバシは鋭いしクチバシをカシャカシャいわせて噛みつこうとする凶暴モンだし、目つきは悪いし。だいたいからしてあんなに大きいとは思わなんだ。
やっと船頭さんが私のルアーを外してくれて、カモメは空に帰っていった。
あの日のことはいまだに鮮明に覚えている。
逃がしてもらったカモメにとってはまさに『カモメが翔んだ日』(by 渡辺真知子)だったのだが、私にとっては忘れ得ぬ『カモメが釣れた日』なのだった。