会社の近所の、ときどき暖簾をくぐる居酒屋の親爺は、芸術的なテクニックを持っている。それはコップ酒を注文したとき。
一合マスの中にコップを入れてそこに一升瓶からお酒を注ぐわけだが、コップだけならいざ知らず、見事に外側のマスにも表面張力で盛り上がるほどお酒をそそいでくれるのだ。一滴も外にこぼすことなく。

誰かがテーブルを揺らす前に、急いでまず表面張力で盛り上がったコップのお酒をすすらなくてはならない。当然、コップを手にすることはこの時点では無理なので、クチビル尖らせてコップにもっていき、コップ表面張力分の酒をズズズっとすする。
表面張力分を飲んだら、今度はマスの表面に盛り上がった酒をこぼさないようにコップをゆっくりと持ち上げる。
持ち上げたコップの尻に滴る数滴をマスの中に落とし、その後、コップの酒をグイッと一口飲み干す。次にマスの中の酒をコップに戻す。これでやっとコップをマスに戻すことが出来る。やっと安心して料理に手を伸ばすことが出来るのだ。

hasinagachocho

ハシナガチョウチョウウオ@マブール

コップ酒を飲むときはこんな口が羨ましい。