知人が入院したのでお見舞いに出向いた。
その道すがら自分の入院経験を思い返していたら、過去に5回も入院していた。この5回ってのは多い方ではなかろうか。
で、その内の2回は生死の境を彷徨った。

一度は死にそうになったから入院したのだけど、もう一回の方は小学校3年の時、手術でのミスが原因だった。小さな町医者だった。
麻酔の量を間違えたらしく、わたしは心肺停止状態になった。その時、不思議な夢を見ていたんだけど、その話しは次回にしよう。地獄の淵から、アッ!違った、天国の階段から降りてきた時、酸素マスクを点けた状態で目覚め、傍らで母親が涙していたのを覚えている。

limitte東野圭吾『使命と魂のリミット
手術による父の死は、担当執刀医の故意による殺人ではなかったのかと疑問を抱いた娘が、その疑問を確かめるべく、その執刀医のもとに研修医として勤務する。
そして、彼女が勤務するその病院に「医療ミスをマスコミ公開せよ」という強迫状が届き、そこにワンマン刑事が登場してきて事件を追っていく。
よくあるパターンだ。
しかしそれにしても、このテの推理小説に登場する人物ってのは決まって驚異的な記憶力を発揮するもんだ。
たまたま廊下ですれ違った人物を覚えていたり、数十年前の事件に関わった人物の名前を覚えていたり・・・。3歩どころか1行読み進んだだけで忘れてしまう鳥頭の私なんか、その記憶力の凄さに驚いてしまうのだ。
東野圭吾の作品はそんなに読んではいないけど、以前に読んだ「さまよう刃」と比べちゃうと60点かな。
でもまさに、この作品も映像化にもってこいの内容だった。ヒョッとしてそれを狙ってるのか?

ところで冒頭に戻るのだけど、お見舞いに出向いた病院は、わたしが5回入院したうち2回をお世話になった病院だった。
勝手知ったる・・・と思って行ったら、様変わりしちゃっていて病棟が分からなくなっていた。最後にお世話になったのは、もう13年も前のことだからなぁ。
5~6年前だったけど、やはりこの病院に友人が入院した。でも、わたしはその時は見舞いに行かなかった。行きたくなかったのだ。

2度目は胆嚢の摘出手術でお世話になったのだけど、その時は父も内科に入院していた。外科病棟にいた私は点滴スタンドをゴロゴロしながら、何度か父の病室に出向いた。同じ病棟の階違いだったから、術後の痛みも我慢できる程度の移動だった。
何日かしてわたしが先に退院した。しかし父は家に戻ることなく、この病院からこの世を去った。

お見舞いに窺った方の病室は、父と私が入院していた頃とは比べようもないほど綺麗になっていて、まるでホテルのようだった。
お見舞いからの帰りに病棟のロビーから外を眺めたら、夕日にビルが紅く染まっていた。

jikei_hosp

父に死が迫ってくると、病院は父の病室を移した。この病院で一番古い病棟で、暗く陰気だった。
病院側の意図は理解できるし、父の意識はすでに無いに等しかったけど、わたしにはそれがたまらなかった。古い病棟が不潔だってわけじゃないけど、人の最期くらい綺麗で気持ちよい病室から送り出して欲しかったのだ。

友人が入院していた数年前にあった抵抗感は、いつの間にか消えていた。
けれどこの景色を眺めてたら、また再び生まれてきたような感じがした。