中学時代からの友だちで千◯(センマル、という名ではない。変わった名前なんで身元がバレる恐れがあり伏せ字にした)という奴がいた。彼は結構有名な日本画家の息子なんだけれど、中学時代は目立たなくておとなしい、そして勉強も運動もイマイチのパッとしない男だった。
それが高校生になるや仮面ライダーばりの変身をして、見事なヤンキーになった。
バリバリにいじくった彼のCB750や仲間のKH500、そして私のTX650などに相乗りし渋谷や原宿に夜な夜な遊びに行っていた。

少し記憶が薄らいでるけど、確かスーパーマーケットの半地下のような場所だったと思う。その少し大きなスーパーマーケットのゲームコーナーみたいなところで、私たちは数人でたむろしてた。きっと煙草を吸うためだったろう(デパートやスーパーは当時、ちょいワル未成年者にとってはもっとも安心出来る場所だった)。
そこに当時は当たり前のように置かれていたジュークボックスがあった。
彼がジュークボックスに近寄ると、「オッ! あるじゃん」とコインを入れてかけた曲が岩崎宏美の『ロマンス』だった。

私はその時始めて聴いたのだけど、いたく気に入ってしまった。良い曲だな、と私が言うと千◯は「じゃあ、もう一回な」と再びコインを入れた。
他の連中も「うん、うん。これはいいよ」ってな調子で、皆で持ち合わせのコインを入れて何度もこの曲をリクエストした。たぶん、15~20回分はコインを投下したはずだ。
当然っちゃあ当然だけど、私たちは5回ほども聴いたら飽きてしまった。他の所に行こうってことになり、私たちはゲラゲラ笑いながらその場を離れた。スーパーマーケットのゲームコーナーから、延々と岩崎宏美のロマンスが流れ続けていたからだ。

数日前の事だけど、夜半に聴いていたラジオからこの曲が流れてきて、懐かしさと一緒に当時の悪友たちの顔が浮かんできた。
その内の一人は20数年前に癌で死んでしまった。もう一人は赤坂&六本木を拠点にしっかり稼いでいる。
そして肝心の千◯は高校時代を最後に会っていない。渋谷で水商売をやってるらしい…なんて噂を聞いたけど、わたしは疑わしいと思ってる。

つまらないだろうけど話しはここで終わらない。もう1曲。アン・ルイスの『リンダ』。



この曲も始めて聴いたのはラジオだった。でも、その時は特に記憶に残ることもなかった。

この曲がヒットした翌年の確か2月、福井県の東尋坊に行った時にこの曲が流れていたのだ。
東尋坊は吹雪だった。こんな時にやって来る奴は自殺志願か私のようなよほどの偏屈野郎か、テレビ朝日の2時間ドラマ制作陣だけだろう。
こっちの寒さなど知ったこっちゃない、とばかりに粗悪スピーカーはこれでもか! というほどの音量でガリガリと割れた音のこの曲を流していた。

あの時、周囲に観光客の姿を見た記憶はなく、人っ気無い吹雪の東尋坊にBGMなんて必要があるのか? 第一、なんでまたこの曲なのか? あの時のあの場面にあまりにも意味不明で場違いなBGMは、ものの見事に私の脳裏に焼き付いた。
以来この曲を聴くたび、私はビュービューと吹きすさぶ吹雪の東尋坊を思い出すのだ。












映像見てて気付いたけど、ジョン・レノンが殺されたのはこの年(1980年)だったか。忘れていた。











エッ? そんな事よりなんで真冬に東尋坊へ行ったのかって?



ムフフフフ





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