ダイビングで一番恐いのはパニックだといわれる。確かにそうだと思う。冷静さを欠いた時、人は残された脱出方法を限りなく見つけづらくなる。

ダイビングのライセンスを取得し、初めてのファンダイブ。
沖縄本島の読谷村・読谷漁港の沖合い にある生け簀にジンベイザメが飼われていて、その餌付けに同行ダイブが出来るという。私はこれに参加した。このファースト・ファンダイブでパニックを起こした。

その時の沖縄はナントカ風の影響で、猛烈に澄み切っていて透明度は50mを優に超えていた。ボートからジンベエが飼われている生け簀入り口(多分水深は20mほど)まで潜行しなくてはならないのだが、下を見ながら潜行を開始したその時、私は恐怖に襲われた。

なにせ物凄い透明度で、何処までも見えるのだ。私はこのまま海中深く沈んでしまう妄想に襲われ、パニックを起こした。潜行スピードも早かった。初めてのダイビングで自分の適正ウェイトも判らず、多めの重りを装着していたためだ。動悸が速くなり、呼吸も荒くなり…。慌てて浮上してしまった。BCにエアーを入れる余裕もなくフィンキックだけで。水面に出てもBCにエアーを入れることを思い出さなかったと記憶している。

潜水直後で水深も10mに満たなかったと思うので、潜水病になる危険性は少なかったとは思うけれど、急浮上はよくない。船が曳航していればスクリューに巻き込まれて大けがだ。

海上にはこれから潜行を開始しようとしているイントラがまだいてくれて、私の顔をのぞき込み「落ち着いて。ハイ、深呼吸をして」とアシストしてくれた。多分、私の目は大きく見開かれたままだったと思う。そんな私をよく再度潜らせてくれたものだ。

もう一つ。
3年前、伊豆の神子元でロストしたことがある。水深は15mあたり、透明度は7mほど。潮流も激しく、私は自分のバディを見失い、同僚の姿も見えぬまま海中で独りぼっちになってしまった。とても恐かった。透明度が良ければ、少しは気持ち的に楽なのだろうけど、周囲がほとんど見えないのだ。しかも自分の身体はどんどん流されている。

この時はパニックは起こさなかった。2分ほどそのままバディを待ち、戻らなかったので浮上を開始した。ゆっくりと。BCのポケットにはフロートが入っている。この時間なら、先ほど私達を落とした船が見つけてくれるだろうと考えていた。それより、船に拾われたときの恥ずかしさが脳裏を横切っていた。

この時、浮上中に偶然同行の者たちと出会い、そのままダイビングを続けた。本当はいけないのだが。一人行方不明のままダイビングを続けるなどもってのほかだ。インストラクターの指示に私は従ってしまった。でもあの時、私は揃って浮上することを強く意思表示するべきだったと思う。
幸い、迷子になったもう一人は、他のグループに混じってダイビングを続け、偶然にも一緒の船に戻ってきた。
浮上後、船上でこっぴどくイントラが怒らたのは言うまでもない。